プレイヤーの行動を読み解き、どの施策がDAUやリテンション、ARPU、LTVを動かすのかを実験で確かめ、運営の意思決定につなげる――それがゲームデータサイエンティストの役割です。本稿は、モバイルF2Pを土台に日常業務の全体像・実務フレーム・面接で評価される提出物の作り方を、実務目線でまとめました。
役割とKPIの地図(仕事内容の全体像)
ゲームデータサイエンティストは、計測 → 仮説 → 実験 → 実装 → 再計測のサイクルで、KPIの因果関係を短く強くしていきます。
- KPIの流れ:DAU → リテンション(D1・D7・D30) → ARPU → LTV
- 主なレバー:オンボーディング、難易度とゲーム内経済、イベント設計、課金体験、広告やUA最適化、レコメンド
日常の焦点は五つ。①コホートやファネルで詰まりを見つける、②初期行動からLTVを見積もり配信やキャンペーンを出し分ける、③クリア率や離脱率で難易度カーブを整える、④チャネル別の質とROIを比較して配分を決める、⑤A/Bテストで効果を確かめ恒常施策に落とす。
PCやコンソールではパッチ頻度の都合で反映サイクルが長くなりやすいため、準実験の設計と次パッチ前提の提案が要点になります。
市場動向と需要(日本/世界)
モバイルF2Pはイベント運営とパーソナライズの回転が速く、施策とKPIが直結します。データサイエンティストの判断が収益や体験に反映されやすい主戦場です。
一方で計測環境は変化中です。iOSのApp Tracking Transparency(ATT)やAndroidのPrivacy Sandboxの影響で、同意の扱い、集計の窓、遅延、再割り当てを前提に評価設計を見直す必要があります。だからこそ、実験計画・準実験・因果推論の素地が価値を持ちます。
PCやコンソールでは収益モデルや更新頻度が異なるため、プレイ深度やDLC継続など指標の重み付けを調整します。
出典:
https://sensortower.com/blog/2024-japan-mobile-gaming-market-insights
https://newzoo.com/resources/trend-reports/newzoo-global-games-market-report-2025
採用で見られる“成果物”とスキル
採用側は「何を出せるか」を重視します。スキル列挙より、再現可能な成果物で語るほうが伝わります。
必須スキル:SQL(BigQueryやRedshiftでの実務クエリ)、Python(pandas・NumPy・scikit-learnの前処理と評価)、可視化やBI(TableauやLookerでのKPIダッシュボード)、統計基礎(推定・検定・回帰、効果量の解釈)。
あると強い:実験計画と因果推論、時系列モデリング、クラウド基盤、ログ設計、レコメンドやクラスタリングの運用。
成果物の例(各1枚で要旨が伝わること):オンボーディング改善のA/B設計書、LTV予測の小規模案件、週次KPIダッシュボード。
PCやコンソールでは、準実験の設計やテレメトリのスキーマ、パッチ周期を前提にした意思決定資料が評価されます。
主要業務の実務フレーム
行動分析(離脱を可視化)
コホートとファネルで詰まりを特定し、セッション長や進行、アイテム導線から原因を切り分けます。提案はテスト可能な粒度まで分解します。
収益最適化(LTV中心)
初期行動からLTVを予測し、配信やプロモーションの対象とタイミングを調整します。価格の弾力やバンドル、サブスク、限定オファーはA/Bで検証し、効果が安定すれば恒常化します。
ゲームバランス(快と苦の均衡)
クリア率・リトライ・離脱の三点で難易度カーブを整えます。ゲーム内経済はインフレやデフレの兆しを早めに捉え、供給とシンクを調整します。
マーケ効果(チャネルの“質”を見る)
流入源ごとの継続率やARPUの差を比較し、予算配分を見直します。プラットフォームの仕様に合わせて、集計の窓や遅延を前提に評価します。
PCやコンソールではレビューや審査のリードタイムを見込み、短期施策は次パッチで恒常化する計画にします。
提出物の作り方(面接で見せる3本を仕上げる)
① オンボーディング改善の実験設計書(A/B)
目的はチュートリアル離脱の抑制。主要KPIはFTUE(初回体験)完了率とD1継続率です。対象範囲と除外条件、仮説、指標定義、割付方法、必要サンプルサイズ、停止基準、分析手順、リスクと代替案を一式にまとめます。完了条件(DoD)は「2ページの設計書+1ページの結果要約+SQLまたは擬似SQL」。最後に次に入れるべき変更を一文で示します。
② LTV予測ミニ案件(特徴量 → モデル → 施策)
起動回数やセッション長、進行、広告視聴、初回課金などで特徴量を設計し、学習と検証を分けて評価します。校正曲線やデシル別の実測LTVで妥当性を確認し、重要度やSHAPで解釈を添えます。完了条件は「Notebookと1ページの提案メモ(対象・手順・期待効果・コスト)」。リーク点検を明記します。
③ KPIダッシュボード(週次の“決め画面”)
定義付きKPIカード、コホートのヒートマップ、チャネル別の質比較、イベント効果のスパイク表示を1画面にまとめます。完了条件は「1画面で次のアクションが書けること」と指標定義と更新手順のメモが付いていること。
PCやコンソールでは、A/Bが難しい場面に差分の差分やマッチングを用い、提案は次パッチで反映できる粒度に落とします。
失敗しがちなポイントと倫理・法務
P値だけで判断しない。 効果量と実装コスト、再現性を合わせて見る。
リークと過学習に注意。 本番分布の変化を想定し、運用監視と再学習の計画をセットにする。
プライバシーと計測。 ATTとPrivacy Sandboxの制約下で、同意、集計の窓、遅延、再割り当てを前提に設計する。
表示と告知。 景品表示法に配慮し、誤認を招く表現やガチャの表示方法に気を配る。
PCやコンソールでは、パッチノートやコミュニティ向けの透明性を高め、データ利用方針を明確にします。
出典:
https://developer.apple.com/app-store/user-privacy-and-data-use/
https://privacysandbox.com/intl/en_us/android/
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/card
まとめ
体験と売上を同時に伸ばす近道は、KPIの地図を持ち、実験で確かめ、反映してまた測ることです。まずはA/B設計書、LTV予測ミニ、週次ダッシュボードの三点を“見せられる”品質に仕上げましょう。モバイルF2Pで骨格を固めれば、PCやコンソールにも無理なく展開できます。
