クライアントから開発会社に共有される企画書。しかし、その中身は大枠のコンセプトやマーケティング戦略などが中心に記された「事業企画書」であることが多いです。プレイヤーを熱狂させる「面白さ」がどう構築されているのか、その具体的な記述は無いことも少なくありません。

ここに、ゲームプランナーの真価が問われます。

プランナーのミッションは、事業企画書に対して、誰もが「これは絶対に面白い!」と感じるような具体的なゲーム内容を考え、細かい部分を肉付けしていくことです。

この記事では、クライアントの事業企画書をベースに、プレイヤーと作り手の心を動かすゲーム企画書を作成する方法を徹底解説します。

クライアントの事業企画書とは?

クライアントから共有される事業企画書の多くは、厳密には「社内稟議を通すための事業提案書」です。

これは、経営層や他部署を説得し、プロジェクトへの投資を承認させるために作られた資料です。そのため、コンセプトやターゲット、予算、マーケティング戦略といった「事業性」に関する項目は非常に詳細です。

一方で、肝心のゲーム内容については、例えば「剣で戦うアクションRPG」といった断片的な記述に留まりがちです。なぜなら、事業承認の段階では「どんなゲームか」以上に「なぜ作るのか」「どう儲けるのか」が重要視されるため、ゲームシステムの詳細設計までは記述されていないことが多くあります。

この構造を理解し、「書かれていない部分にこそ、我々が価値を発揮する領域がある」と捉えることが重要です。

魅力的なゲーム企画書にするために

プランナーの仕事は、不足しているゲームの面白さを具体化することです。そして、そのアイデアを再構成し、クライアントに「これは面白い!」と確信させる、より強力な企画書として提示し直すことです。プロが作る企画書には、人を動かすための明確な構成が存在します。

1. サマリー 

企画書の1ページ目に、タイトル、プラットフォーム、ジャンル、対象ユーザー、販売価格、開発期間、販売時期といった企画の全体像が一目でわかる基本情報をまとめます。聞き手はまずここで全体像を把握し、安心して話を聞く体制に入れます。

2. 企画発案の経緯・背景 

「なぜこのアイディアが生まれたのか」「なぜ今この市場なのか」という、クライアントが持つ企画の背景や動機を改めて言語化します。

3. 市場分析・ベンチマーク 

クライアントの企画書にあるデータに加え、プランナー自身でも市場を分析します。ベンチマークとなるタイトルの成功要因や、これから作るゲームがどうすれば差別化でき、成功する確度が高いかを客観的なデータで補強します。これにより、後半で説明するゲーム内容の提案に強い説得力が生まれます。

4. ゲームのポイント(面白さの要約)

詳細なゲームシステムの説明に入る前に、このゲームの最も魅力的なセールスポイントを要約します。ポイントは簡潔に説明するために、スライドは1〜5枚程度で書きます。ここで聞き手の心を掴み、「もっと詳しく聞きたい」という期待感を高めます。

5. 具体的なゲーム内容(詳細仕様) 

ここが「肉付け」作業の真骨頂です。クライアントの事業企画書の断片的な情報を基に、面白さの核を徹底的に具体化します。

世界観

ゲームの世界観や設定、また導入のストーリーなどを記載します。

コア・ゲームサイクル

プレイヤーを夢中にさせる「プレイ→報酬→強化→再挑戦」などといった行動ループを、フローチャートなどで可視化します。これがゲームの面白さのエンジンとなります。

アクション・ルール

例えば「剣を振る」という記述があれば、「ボタン長押しによるタメ攻撃」「敵の攻撃に合わせた弾き」といった、アクションの詳細を提案します。

UI/UX

中心となるゲーム画面のUIレイアウトについて、仮として図示できると最適です。その際に大きく目立つボタンインターフェースなどがあれば、それはおそらくこのゲームの大きな特徴となっていることでしょう。

6. 課金要素(マネタイズ) 

スマートフォンゲームや追加コンテンツ販売がある場合、「どうやって売上を立てるのか」は最重要項目です。提案したゲームシステムが、クライアントの事業計画書の内容とどう連携するのかを明確に示します。

7. 開発計画 

提案したゲーム内容を実現するための、具体的な開発体制や現実的なスケジュール案を提示します。これにより、自分たちの提案が単なる夢物語ではなく、実現可能な計画であることを証明します。

提案を成功に導くための「プロの心構え」

最高の企画書を作っても、伝え方を間違えれば台無しです。提案を成功させるために、以下の点を心に留めておきましょう。

事業性を常に意識する

あなたの提案は、クライアントの事業企画書にある予算やスケジュールと乖離していないでしょうか?「この機能を追加すると開発費が倍になります」や「このゲームは面白そうだが売れるかはわかりません」などとなっては本末転倒です。常に事業性も意識して、最高の体験を創り出す視点が求められます。

密なコミュニケーションで認識のズレを防ぐ

企画の肉付けにおいて、IPの核心であるストーリーや世界観に手を加える際は、特に注意が必要です。クライアント側で既にビジョンが固まっていたり、専門の担当者がいたりするケースが多いためです。

独自の解釈で詳細な提案を作り込む前に、まずは「どこまで提案して良いか」をクライアントに確認することが、後の大きな手戻りを防ぐ鍵となります。

まとめ:最高の「パートナー」を目指して

プランナーに課された役割とは、クライアントの事業企画という骨格に、プレイヤーを熱狂させる「面白さ」を肉付けすることです。しかし、そのプロセスで決して忘れてはならないのが、「面白さ」と「事業性」のバランス感覚です。

どれほど独創的で魅力的なアイデアであっても、クライアントが描く事業の成功と結びつかなければ、それは単なる空想に過ぎません。「このゲームは面白い、かつ事業としても成功する」。この二つの確信をクライアントに与えて初めて、企画は本当の価値を持ちます。

最終的に目指すべきは、単なる発注先と受注先という関係性を超え、事業の成功を共に目指す「最高のパートナー」です。クライアントがあなたの提案に対し、「このチームなら、最高のゲーム体験と事業の成功、その両方を実現してくれる」と熱狂的なファンになること。それこそが、企画提案における最大の成果と言えるでしょう。