コンソールやモバイルを問わず、ヒットタイトルの多くは世界同時リリースが当たり前になりつつあります。そのラストワンマイルを担うのがゲームローカライズのプロフェッショナルです。
単なる文字置き換えではなく、文化・法律・宗教・生活習慣まで踏まえたカルチャライズを行い、さらにLQA(Linguistic Quality Assurance)で実装後の品質を検証する――こうした工程が1つでも欠ければ海外ユーザーの評価は一気に下がり、売上機会を失いかねません。

需要拡大とともに人材争奪戦は激化しており、語学力+ゲーム知識を組み合わせた「替えの利かないスキルセット」がキャリアの武器になります。本記事では、未経験からでもローカライズ/LQA職へ転身するために押さえておきたいポイントを体系的に解説します。

たとえば、固有名詞を直訳した結果、欧米の歴史的悲劇を想起させて炎上した海外ローンチ事例は枚挙にいとまがありません。逆に『メトロイドプライム』の“スキャン翻訳”のように、ゲーム性と世界観を両立させた高品質ローカライズは海外メディアから絶賛され、Metacriticスコアを底上げした好例として語り継がれています。言語というインフラを整えることが、売上だけでなくブランド価値も左右する――それが本職種の醍醐味です。


仕事の全体像

  1. 翻訳原稿の作成
    ゲーム内テキスト・UI・音声スクリプトを原語版の開発データから抽出し、CATツール(Memsource, Phrase, Trados など)で管理しながら多言語化します。
  2. カルチャライズ
    国ごとのレーティング規定や宗教的禁忌を考慮して表現を調整。シナリオライターと協議してストーリー自体の修正提案を行うこともあります。
  3. LQA(機能・言語テスト)
    ローカライズ済みビルドを実機でプレイし、誤字脱字・テキスト溢れ・口パク不一致などをバグチケットとして報告。エンジニアやUIデザイナーと協力して修正を回します。
  4. 実装確認
    修正が反映されたかを再度チェックし、必要に応じてLQAを繰り返して品質を担保します。

2024年のゲームローカライズサービス市場は13億ドル規模、2033年には25億ドルまで拡大すると予測されています。需要の高まりに伴い、社外ベンダーやフリーランス翻訳者を束ねて納期と品質を両立させるマネジメント力の重要性も増しています。
参照元: https://www.businessresearchinsights.com/market-reports/game-localization-services-market-117016


必要スキル

  • 語学力
  • 母語レベルの日本語運用能力
  • ビジネスレベル以上の英語力
  • 中国語・韓国語・欧州言語があれば大きな強み
  • ツールスキル
  • CATツール(タグ管理・用語ベース運用)
  • JIRA / Backlog でのバグトラッキング
  • GitHub でのコミットレビュー
  • 技術知識
  • JSON や XML などゲーム特有のファイル構造
  • Python / JavaScript での簡易スクリプト作成
  • ソフトスキル
  • 文化差異への高い感度
  • 提案力・ドキュメンテーション力
  • 多国籍チームとのオンライン協業コミュニケーション

各言語のスタイルガイドを整備・運用できれば、表現揺れを最小化し再翻訳コストを削減できます。次世代コンソールの可変UIに対応するため、文字数制限を計算するスクリプトを書ける人材はとりわけ重宝されます。


キャリアパス

ステージ主な役割年収目安
翻訳者(1〜3年)テキスト翻訳・用語集整備350〜450万円
LQAリード(3〜5年)バグ管理・テスター統括450〜550万円
ローカライズPM(5〜7年)外部ベンダー管理・スケジュール調整550〜700万円
グローバルプロデューサー(7年〜)事業戦略・海外法人マネジメント900万円〜

モバイル運用経験は「短サイクルで大量テキストを捌く」実績として高評価。海外支社駐在やリモートワークを前提とした求人も増えており、ワークライフバランスの改善につながったという転職者の声も多いです。


未経験→採用戦略

  1. 翻訳サンプルを公開
    好きなインディーゲームのテキストを翻訳し、GitHub で原文との比較を公開。直訳版とカルチャライズ版を並べ、判断理由をコメントすると説得力が増します。
  2. LQA模擬バグ票を作成
    無料体験版を使い、スクリーンショットと再現手順を添えたバグ票を作成。翻訳+検証+報告が一気通貫でこなせることを示せます。
  3. コミュニティ翻訳に参加
    Steam ワークショップなどでユーザー翻訳プロジェクトに参加し、実働タイトルのスタッフクレジットに名前を載せる。実績として大きな強みになります。
  4. オンライン協業の経験を積む
    Slack / Discord / Notion で多国籍メンバーとやりとりし、「リモートでも開発を止めない翻訳者」をアピールしましょう。

選考では「翻訳精度 × LQA対応スピード × コミュニケーション能力」の掛け算で総合評価されます。就活準備の段階でこれら三要素を可視化できる成果物に落とし込むのが最短ルートです。


まとめ

ゲームローカライズは語学力・開発知識・文化理解の三要素を掛け合わせることで価値が最大化します。未経験者でも、

  1. CATツールを触る
  2. 簡易LQA手順書を自作する

この二つを今日から始めるだけで、面接時に語れる具体的なエピソードが手に入ります。急成長市場の今こそ専門性を磨き、グローバルタイトルを裏側から支えるキャリアを掴み取りましょう。