最初に:収入の答え
収入は「平均単価 × 稼働日数 × 稼働率 - 経費 - 税・社保」で決まります。単価を伸ばす近道は、伝わるポートフォリオ、迷いのない獲得導線、戻しを減らす進行設計の三点です。
本稿はこの三点を、日々の運用に落とせる形で整理します。
最近の需要の傾向
ゲーム、映像、広告、SNSアバターまで3Dの使われ方は広がっています。関連領域の一例として、3D Mapping/Modeling市場は2030年に約167.8億米ドル、2025–2030年のCAGRは16.2%という推計があります(“3DCG全体”の確定値ではなく、近接領域の指標)。
出典:Grand View Research「3D Mapping & 3D Modeling Market」
https://www.grandviewresearch.com/press-release/global-3d-mapping-3d-modeling-market
単価と年収の考え方
まず目標年収から逆算して必要売上を置き、平均単価・継続率・稼働率を現実的に設定します。案件相場の一例として、平均月額は70.3万円、最高月額は100万円という集計があります(サイト調べ・月額契約ベース)。数字は季節要因や母集団で変動するため、定期的に見直しましょう。
出典:フリーランススタート「3Dデザイナーの求人・案件」
https://freelance-start.com/jobs/job_category-26
見積もりの基本式とすり合わせ
価格の型を先に共有し、期待値をそろえます。
- 価格=基準工数 × 時間単価 + 追加(差し戻し・仕様変更)+ 権利条件係数 + ラッシュ料
- 差し戻し係数は「1回目○%、2回目以降○%」のように最初から明示。
- 検収バッファ(最終納品後○営業日)と支払いサイトはセットで記載。
- 要件定義は利用先(ゲーム内/広告/展示)、LOD、ターゲットFPS/レンダ条件、テクスチャ解像度、ポリゴン上限、Unreal Engine/Unityのバージョンまで文書化。
ポートフォリオの設計
「完成品+過程」で説得力を作ります。
- 作品は3〜5点に厳選し、役割・担当範囲・工数・制作日を明記。
- ワイヤー/UV/マップ一式/ライト別比較/ターンテーブルで再現性を可視化。
- 失敗→改善の事例を1点入れると、修正設計力が伝わります。
主な公開先(用途別)
- 自サイト(独自ドメイン):一覧性・読み込み速度・OGP/構造化データを最適化。問い合わせ導線と著作権表記を明確に。
- X(旧Twitter):固定ポストにショーリールや制作スレッドを集約。プロフィールに連絡先とポートフォリオURLを記載。
- YouTube/Vimeo:ショーリール掲載。解像度・字幕・チャプターで見やすさを担保。
- Sketchfab:3Dモデルのインタラクティブ閲覧に適する(必要に応じて非公開リンクで共有)。
- Google Drive/Notion:選考時の限定共有に使う。アクセス権と更新履歴を管理。
見せ方の基本
- サムネは最良アングル1枚+補助数枚で“得意領域”を即伝達。
- 作品タイトル・タグは日英併記で検索導線を増やす。
- 第三者の画像は使わず、比較・検証も自作素材に統一。
仕事の獲得導線
受注は「既存取引先」「人脈」「エージェント」の三系統が主軸です。実態調査でも過去・現在の取引先が32.7%、人脈が27.9%、エージェントサービスが13.4%と、収入に直結する経路の上位をこれらが占めます。既存関係は高単価・継続につながりやすく、エージェントは条件適合と支払いの安定化に有効。SNSやイベントは検証結果の小出し発信を継続して効かせます。
出典:一般社団法人フリーランス協会「フリーランス白書2024」
https://blog.freelance-jp.org/wp-content/uploads/2024/03/whitepaperFreelanceSurvey2024.pdf
進行と品質の再現性
戻しを減らす鍵は、レビューの型と共有資材です。
- レビュー順序(シルエット→エッジ→マテリアル→ライト→最終)を最初に合意。
- 比較GIFと注釈スクショでズレを可視化。
- 命名規則・フォルダ構造・差分管理をテンプレ化し、再現用ノートに残す。
単価を上げる具体策(5つ)
ここからは、同じ時間で単価を上げるための実務の打ち手です。
- 難所に強くなる
髪・布・群集・破壊表現・リグ最適化など、手戻りが出やすい領域を得意分野にする。代替しづらい強みは見積りの根拠になる。 - 往復を減らす仕組みを作る
自動化やプリセット、命名規則、レビュー用テンプレでパイプラインを短縮。修正回数と納期短縮の実績を提示し、時間単価だけに依存しない提案にする。 - 証拠を残す
Before/After、プロファイル結果、工数ログを毎回まとめ、品質と再現性の「根拠」として添付。次回の見積りや単価交渉の材料になる。 - 継続前提の設計にする
初回でスピードと正確性を示し、検収時に次の小タスクや保守・運用の月次枠を提案。準委任や定期発注に育てる。 - 伝わる見せ方にする
完成画像に加え、ワイヤー・UV・マップ・レビュー基準を1作品1ページで整理。意思決定者が数分で判断できる形に整える。
契約・権利・素材の扱い
トラブル回避は書面で決まります。
- 範囲・修正回数・再委託可否・支払いサイトを明文化。
- 著作権・クレジット・二次利用、ポートフォリオ掲出の可否とモザイク要否を具体に。
- 第三者サイトの図版やスクショは無断転載しない。事実は地の文で要点を整理し、必要最小限の自作図で補う。
- AI生成物・CC素材は商用可否、クレジット義務、再配布条件を確認。不明なら使わない。
学びをルーティン化
四半期ごとに1テーマを深掘りし、ツール更新や失敗→改善を短く記録。小さな検証でも公開して受注導線へつなげます。継続発信は紹介・再依頼の起点になります。
相談できる相手を持つ(継続の土台)
フリーランスは一人で判断する場面が多く、迷いが長引くほど手が止まりがちです。定期的に悩みを共有できる相手がいるだけで、手戻しや燃え尽きのリスクが下がり、学習も途切れにくくなります。
- 月1回のミニ相談会を固定(30分・オンラインでOK)
- レビュー相手を2〜3名リスト化(得意分野を分散)
- 相談範囲を明確化(技術/見積もり/契約/メンタルのどれか)
- 相談→アクション→振り返りのテンプレを1枚にまとめる
孤独感を減らすことは甘えではなく、“継続率”を上げるための設計です。
まとめ
「作品はあるのに単価が伸びない」を越える鍵は、値付けを“感覚”から“設計”に変えることです。単価は専門性で、稼働率は進行設計で、継続率は信頼と契約で上がります。市場の追い風は追い風として受け止めつつ、日々の運用で差がつきます。
まずは“ひとつだけ”決めましょう。あなたが最短で価値を出せる難所を一つ選び、検証→公開→受注導線に載せる。戻しを減らすレビュー手順と提出物の型は、次の案件から共通化します。権利とクレジットは最初の見積もり段階で線引きして、後戻りをなくします。
次の一歩(今日から)
1) 見積もり雛形を更新(差し戻し係数・検収バッファ・支払いサイトを明記)
2) 代表作を1点だけ再構成(完成+過程+判断基準を1ページで)
3) レビュー手順を1枚化(チェック観点とOK例/NG例)
4) 価格表A/Bを用意(ベース工数版/短納期・権利係数込み版)
5) 連絡先3社に近況と新作を共有(返信締切と次の小タスク案を添える)
迷ったらの判断基準
- 時間が増えないか(往復を生む要件は先に潰す)
- 品質が伝わるか(過程と根拠を添えて数分で判断できる形か)
- 権利が明確か(利用範囲・掲出可否・二次利用の線引きがあるか)
“専門性・進行・権利”の三点がそろうと、単価は運ではなく設計で上がります。まずは上の5項目から、今日の案件に一つずつ落とし込んでみてください。