数字で読み解く──3DCGデザイナー市場はいま“売り手優位”

ゲーム系3DCGデザイナーの公開求人は 4,668 件 といまだ高水準[^1]。
平均年収も 約 484〜488 万円 と、全産業平均 458 万円を上回っています[^2]。

なぜ需要が落ちないのか?

  1. Unreal Engine 5(以下 UE5)やリアルタイム・レイトレーシング対応機種の普及
  2. モバイル・VR・AR とプラットフォームが多層化
  3. インディーから AAA(大規模高予算タイトル)まで制作ラインが同時進行

──つまり「作りたい企業」が「作れる人」を追い越した状態です。
この追い風をつかむカギは“制作フロー全体を語れるスキルセット”。次章では、現場がまずチェックする必須3ツールを取り上げ、どこまで使えれば即戦力と見なされるのかを具体的に整理します。

[^1]: 求人ボックス「3DCG デザイナーの仕事・求人情報(4,668 件)」|https://xn--pckua2a7gp15o89zb.com/3DCG-%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%81%AE%E4%BB%95%E4%BA%8B

[^2]: 厚生労働省 JobTag「CG制作」賃金データ(全国平均 483.9 万円・令和6年版)|https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/329

必須スキル──まず押さえたい3本柱

Maya【初級→実務レベルの到達目安】

ゲーム制作現場で最も導入率が高い3Dソフトです。
‐ 初級:Box モデリングでシンプルな小物を造形し、アウトライナとショートカットに慣れる。
‐ 実務:リギングやブレンドシェイプまで一通り回し、FBX で書き出せれば多くの求人で“即戦力候補”に入ります。

Photoshop【初級→実務レベルの到達目安】

テクスチャ制作の王道ツール。PBR(物理ベースレンダリング)用のマスク/レイヤー操作が評価ポイントです。
‐ 初級:アルベド(色)+ノーマルマップの2枚作成。
‐ 実務:メタリック・ラフネスも加えた4枚構成を扱い、トリムシートを量産できると一歩リード。

Unity【初級→実務レベルの到達目安】

国内のモバイル・VR案件で採用率トップのゲームエンジン。
‐ 初級:モデルをインポートし、標準シェーダで表示するまで。
‐ 実務:マテリアル最適化、ライトベイク(光計算)、LOD 設定を説明できると「実装を理解するデザイナー」として重宝されます。

Maya で形を作り → Photoshop で質感を塗り → Unity で動かす──この一連フローを2〜3分のポートフォリオ動画にまとめておくと、書類でも面談でも技術力を端的に示せます。

歓迎スキル──プラス α で差が付く 5 つのツール

Blender|導入コストゼロで“量産力”を補強

・オープンソースの無償ソフト。モデリング、スカルプト、レンダリングまで一通り揃う。
・近年はインディーや中小スタジオで採用が急増。ポートフォリオに Blender 作品を 1 点混ぜるだけで「コスト感覚がある人材」という印象を残せます。

Houdini|背景・VFX を効率化するプロシージャルツール

・ノードベースで地形生成や破壊表現を量産できるのが強み。
・AAA(大規模高予算)タイトルで背景量産やエフェクト用途に導入が進行中。まずは「地形生成→ゲームエンジンへ出力」の流れを一度体験しておくと差別化しやすい。

Substance Painter|PBR テクスチャをスピーディに作成

・スマートマテリアル機能で汚れや傷を自動付与でき、品質と工数を同時に底上げ。
・Adobe 製でアップデートが早く、スタジオ導入も加速。アルベド(色)・メタリック・ラフネス・ノーマルの 4 枚をワンクリックで書き出せる点が実務で重宝されます。

ZBrush|キャラクターの“面構え”を決定づける彫刻ソフト

・ハイポリ彫刻の定番。ハイポリから法線マップをベイクしてローポリに載せるワークフローは、キャラ案件でほぼ必須。
・顔・衣装・小物のディテールを詰めたモデルを 1 つでも提示できれば、説得力は段違いです。

Unreal Engine 5|ハイエンド表現の切り札

・Lumen(リアルタイム全局面照明)と Nanite(マイクロポリゴン)で映像級クオリティをリアルタイム表示。
・UE4 からの移行が各社で進み、大型プロジェクトの求人が増加中。シーンにモデルを配置し、Lumen でライティングを試すだけでも「次世代エンジンに触れている」アピールになります。

学び始めは 興味が湧くツールを 1 つ選び、週末に小作品を公開 する程度で十分です。操作動画を検索して流し見し、気になった工程だけ真似する“ライトスタート”でもポートフォリオの幅は広がります。

技術だけでは足りない──評価が跳ね上がる3つの見せ方

1. 実績は「数字×役割」で書く

案件名よりも “どこを・どれだけ・どう改善” が伝わると説得力が増します。
‐ 例)都市プロップを120点担当し、LOD(レベルオブディテール)最適化で描画負荷-18%
‐ 例)メインキャラのフェイシャルを制作、ブレンドシェイプ40種を実装
数値とタスクをセットにすると、採用側があなたの再現性を即イメージできます。

2. ポートフォリオは「幅+深さ」の両輪

‐ 幅:ファンタジー・SF・リアルなど異なるテイストを最低3本。配属後の絵づくりを想像してもらうためです。
‐ 深さ:得意分野の工程を詳細公開。ワイヤーフレーム、UV展開、テクスチャ分解図、Unity 表示まで並べれば工程理解を示せます。
セルルック作品はシェーダー前のモデル画像も添えると純粋な造形力を評価してもらいやすくなります。

3. 生成AI・外部アセットは「透明性」を添える

‐ AI 生成物を使う場合は「AI 生成70% → 手直し30%」など作業割合を明記し、商用ライセンス可否も添付。
‐ ストア購入モデルはクレジットと改変点を記載。
出所と改変度を開示するだけで審査がスムーズになり、トラブルリスクも回避できます。

技術力×伝わり方=評価。数値・工程・透明性をセットで示すと、書類通過率が一段上がります。

面談で差がつく3ポイント──再現性と協働姿勢をどう示すか

1. 制作能力と柔軟性は“具体名詞+数値”で語る

・「フェイシャル用ブレンドシェイプ40種」「LOD3まで最適化」など作業単位をハッキリ名指し。
・トラブルシューティング例も用意しておくと強い。
 例:三面図不足をZBrushブロックアウトで補完し、修正工数-30%。

2. チーム適応力は“対話の質”で測られる

・報連相の頻度と媒体を具体化──「Slackで日次GIF共有」「週1オンラインチェックで24h以内に反映」。
・YES/NOではなく“代替案”を提示できるかが評価の分岐点。普段からメモ習慣を持つと咄嗟の提案がしやすくなります。

3. 得意領域は“映像+口頭”の二段構え

・まず2分程度のデモリールで全体像を提示。
・深掘りではワイヤーフレーム→UV→テクスチャ→シェーダ→エンジン配置と工程を飛ばさず説明する。
 工程全体を語れる=再現性が高い、と判断されます。

面談は「この人のやり方をチームで再現できるか」を見極める場。数字、工程、共有フローをセットで語れば合格ラインを超えやすくなります。

FAQ──よくある10の疑問

  • Q1. 3DCGデザイナーは本当に人手不足?
    キャラ・背景とも慢性的に不足。大手サイトでは常時数千件が公開され、実務フローを一通り回せる人材は取り合いになっています。
  • Q2. Maya と Blender、どちらを先に学ぶ?
    まず Maya(商用案件で指定が最多)。Blenderは「低コスト量産ワークフロー」用に+αで触ると幅が広がります。
  • Q3. PBR テクスチャって何?
    光の物理計算をリアルに行う仕組み。必須の3枚(アルベド/メタリック/ノーマル)を Photoshop や Substance Painter で用意するのが基本です。
  • Q4. ポートフォリオは何点必要?
    5〜6作品が目安。テイストの“幅”と工程キャプチャの“深さ”を両立し、得意分野を1つ深掘りすると通過率が上がります。
  • Q5. シェーダで盛った作品だけでもOK?
    モデル単体も必ず提示。シェーダ適用前の画像や LOD 用ローポリ版を並べないと「実力が読めない」と評価が下がります。
  • Q6. 生成AIを使ったモデルは提出可?
    可能。ただし透明性が必須。「AI生成→自分の手直し」の比率と商用ライセンス可否を README に明記しましょう。
  • Q7. ポリゴン上限を超えるとどうなる?
    リテイクでスケジュール遅延。制作開始前に三角ポリ数を確認し、ハイポリ→ローポリのベイク設計を提案すると信頼度アップ。
  • Q8. Unity と Unreal Engine、どっちを覚える?
    モバイル案件は Unity、ハイエンド案件は UE が主流。まず Unity で“動かす”基礎を掴み、フォトリアル志向なら UE5 を追加すると効率的です.
  • Q9. テクスチャは 4K が標準?
    スマホ向けは 2K 以下が主流。解像度より Tiling(タイル化)や トリムシート といった軽量化テクを実践できるかが評価ポイント。
  • Q10. 面談では何を聞かれる?
    「再現性と協働姿勢」が焦点。STAR 法でエピソードを用意しておくと安心です。
      • S(Situation:状況)/T(Task:課題)/A(Action:行動)/R(Result:結果)
    例:
      S:納期2週間前に仕様変更→
      T:ポリゴンを3割削減する必要が発生→
      A:ZBrush Decimation+手動調整→
      R:描画負荷-25%で納期を死守
    この型で3例ほど準備すれば、質問が変化しても落ち着いて答えられます。

まとめ──“学びを止めない人”が次のチャンスをつかむ

3DCG デザイナーの公開求人は 4,668 件、平均年収は 484〜488 万円。数字が示すとおり、市場はまだ伸びています。追い風を最大化するポイントは次の3つです。

  1. 3 本柱を確実にする
    Maya・Photoshop・Unityで「作る→塗る→動かす」を通しで語れること。
  2. +αスキルで幅を出す
    Blender・Houdini など興味の湧くツールを1つ選び、小作品を公開しておく。
  3. 成果を“数字×工程×透明性”で伝える
    担当範囲・改善率・使用ツールを具体的に書き、AI利用や外部アセットは出所を明記する。

この3点を押さえれば、書類でも面談でも「再現性」「協働姿勢」を示せます。まずは気になったチュートリアル動画を1本流し見し、週末に小さなモデルを仕上げてみましょう。アウトプットを重ねるたびにポートフォリオは厚みを増し、次のオファーを呼び込んでくれます。

今日の一歩が、半年後のキャリアを広げる最短ルートです。